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東京地方裁判所 昭和62年(特わ)2363号 判決

本店所在地

東京都港区北青山二丁目七番二二号

木元不動産株式会社

(右代表者代表取締役 佐久間博行)

本店所在地

同都港区南青山二丁目二七番二八-六〇二号

株式会社ベルウッド商会

(右代表者代表取締役 花田昭七)

本籍

新潟県新井市小出雲三丁目三四八一番地

住居

東京都渋谷区大山町二三番一号

会社員

木元隆

昭和九年九月一九日生

本籍

東京都江戸川区南小岩二丁目二四五番地

住居

同都杉並区下井草三丁目三九番二一号

ヴィラジャルディーノ四〇三号

会社役員

野地忠

昭和一一年一月一八日生

本籍

埼玉県浦和市白幡三丁目一番

住居

同県浦和市白幡三丁目一番九号一-一一一〇

会社役員

山田義博

昭和二五年二月二二日生

右木元不動産株式会社、株式会社ベルウッド商会及び木元隆に対する法人税法違反、野地忠に対する法人税法違反、所得税法違反、山田義博に対する所得税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏、同高木和哉出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人木元不動産株式会社を罰金六五〇〇万円に、被告人株式会社ベルウッド商会を罰金一六〇〇万円に、被告人木元隆及び同野地忠をいずれも懲役二年に、被告人山田義博を懲役二年四月及び罰金一億三〇〇〇万円に各処する。

被告人山田義博においてその罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人木元不動産株式会社(以下「被告会社木元不動産」という。)は、東京都港区北青山二丁目七番二二号に本店を置き、不動産の売買仲介及び管理等を目的とする資本金二〇〇〇万円(昭和五九年五月一一日以前は五〇〇万円)の株式会社であり、被告人木元隆(以下「被告人木元」という。)は、右会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたもの、被告人野地忠(以下「被告人野地」という。)は、不動産の売買及び仲介等を目的とする株式会社忠峰商事(以下「忠峰商事」という。)の代表取締役をしているものであるが、被告人木元及び同野地は共謀の上、被告会社木元不動産の業務に関し、法人税を免れようと企て、忠峰商事に対する架空仲介手数料(架空売上原価)を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  昭和五七年一〇月一日から同五八年九月三〇日までの事業年度における被告会社木元不動産の実際所得金額が一億五〇五五万二三九円で、課税土地譲渡利益金額が一億五六一三万七〇〇〇円あった(別紙一の(1)修正損益計算書及び同一の(2)脱税額計算書参照)のにかかわらず、同五八年一一月二八日、東京都港区西麻布三丁目三番五号所在の所轄麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億一九二三万二三九円で、課税土地譲渡利益金額が一億二四〇五万七〇〇〇円であり、これに対する法人税額が七一一七万八二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六二年押第一四八一号の一)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額九〇七四万五八〇〇円と右申告税額との差額一九五六万七六〇〇円(別紙一の(2)脱税額計算書参照)を免れ、

二  同五八年一〇月一日から同五九年九月三〇日までの事業年度における被告会社木元不動産の実際所得金額が五億六六一二万三七八八円で、課税土地譲渡利益金額が九億四三九万七〇〇〇円あった(別紙二の(1)修正損益計算書及び同二の(2)脱税額計算書参照)のにかかわらず、同五九年一一月二八日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四億九七五六万七二一八円で、課税土地譲渡利益金額が八億四六七二万五〇〇〇円であり、これに対する法人税額が三億七七八四万八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の二)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四億一九〇五万八四〇〇円と右申告税額との差額四一二一万七六〇〇円(別紙二の(2)脱税額計算書参照)を免れ、

三  同五九年一〇月一日から同六〇年九月三〇日までの事業年度における被告会社木元不動産の実際所得金額が六億四二三〇万五七四九円で、課税土地譲渡利益金額が六億七六七六万三〇〇〇円あった(別紙三の(1)修正損益計算書及び同三の(2)脱税額計算書参照)のにかかわらず、同六〇年一一月二八日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億三五八六万三四二二円で、課税土地譲渡利益金額が四億四五七〇万円であり、これに対する法人税額が一億七九三七万四一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の三)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四億一五六万七五〇〇円と右申告税額との差額二億二二一九万三四〇〇円(別紙三の(2)脱税額計算書参照)を免れ、

第二  被告人株式会社ベルウッド商会(昭和五九年一二月一九日以前の商号は、株式会社博善福祉協会。以下

「被告会社ベルウッド商会」という。)は、東京都港区南青山二丁目二七番二八-六〇二号(同五九年一二月二三日以前は同都港区赤坂二丁目一五番四号)に本店を置き、不動産の売買、仲介、賃貸及び管理等(同五九年一二月一九日以前は冠婚葬祭式典の請負等)を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人木元は、同五九年一二月二〇日以後右会社の取締役かつ実質的経営者としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人木元は、被告会社ベルウッド商会の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仲介手数料(架空売上原価)を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  昭和五九年八月一日から同六〇年七月三一日までの事業年度における被告会社ベルウッド商会の実際所得金額が七五三四万五九〇六円で、課税土地譲渡利益金額が一億六万四〇〇〇円あった(別紙四の(1)修正損益計算書及び同四の(2)脱税額計算書参照)のにかかわらず、同六〇年九月二八日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が三八七万四〇九四円で、課税土地譲渡利益金額が二一四五万三〇〇〇円であり、これに対する法人税額が四二九万六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の四)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五一六五万三一〇〇円と右申告税額との差額四七三六万二五〇〇円(別紙四の(2)脱税額計算書参照)を免れ、

二  同六〇年八月一日から同六一年七月三一日までの事業年度における被告会社ベルウッド商会の実際所得金額が一億二六三二万二三七四円で、課税土地譲渡利益金額が一億四八二四万一〇〇〇円あった(別紙五の(1)修正損益計算書及び同五の(2)脱税額計算書参照)のにかかわらず、同六一年九月二九日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八七六二万六八四九円で、課税土地譲渡利益金額が一億一二一〇万一〇〇〇円であり、これに対する法人税額が五九三七万八二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の五)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額八三三六万一六〇〇円と右申告税額との差額二三九八万三四〇〇円(別紙五の(2)脱税額計算書参照)を免れ、

第三  被告人山田義博(以下「被告人山田」という。)は、埼玉県浦和市白幡三丁目一番九号一-一一一〇に居住し、東誠商事株式会社の取雑役として同社に勤務する傍ら、個人で不動産の売買及び仲介業を営んでいたものであるが、被告人山田及び被告人野地は共謀の上、被告人山田の所得税を免れようと企て、不動産売買の仲介手数料収入を忠峰商事の収入であるように装って除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  昭和五九年分の被告人山田の実際総所得金額が一億二五一三万一七二三円で、分離課税による土地の譲渡等に係る事業所得金額が八九三三万八七〇七円あった(別紙六の(1)修正損益計算書及び同六の(2)脱税額計算書参照)のにかかわらず、同六〇年三月一日、埼玉県浦和市常盤四丁目一一番一九号所在の所轄浦和税務署において、同税務署長に対し、同五九年分の総所得金額が一〇一七万八四六五円で、分離課税による土地の譲渡等に係る雑所得金額が一三二二万四五九四円であり、これに対する所得税額が六七三万九七〇〇円(ただし、申告納税額六七三万九〇〇〇円)である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の六)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億四一二六万四一〇〇円と右申告税額との差額一億三四五二万四四〇〇円(別紙六の(2)脱税額計算書参照)を免れ、

二  同六〇年分の被告人山田の実際総所得金額が三億八四〇五万五五〇五円で、分離課税による土地の譲渡等に係る事業所得金額が二億四五八〇万四一五円あった(別紙七の(1)修正損益計算書及び同七の(2)脱税額計算書参照)のにかかわらず、同六一年三月八日、前記浦和税務署において、同税務署長に対し、同六〇年分の総所得金額が二五七一万九六一九円で、分離課税による土地の譲渡等に係る雑所得金額が五一二五万一三八三円であり、これに対する所得税額が四〇五一万七九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の七)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額四億四一三〇万一二〇〇円と右申告税額との差額四億七八万三三〇〇円(別紙七の(2)脱税額計算書参照)を免れ、

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人野地忠の当公判廷における供述

判示第一の一ないし三及び判示第二の一、二の各事実につき

一  被告人木元隆の当公判廷における供述(第九回公判における供述については、被告人野地の関係では同公判調書中の被告人木元隆の供述部分)

一  第一回公判調書中の被告人木元隆の供述部分

一  被告人木元隆(昭和六二年九月二五日付、同月三〇日付、同年一〇月一日付、同月六日付及び同月六・七日付)及び同野地忠〔同年九月二一日付、同月二五日付、同年一〇月一日付、同月六日付(二通)、同月七日付及び同月八日(ただし、取調日)付〕の検察官に対する各供述調書

一  光野信政、山口健策(同年九月一六日付及び同年一〇月二日付)、中川甲山及び鈴木孝〔同年九月二四日付(一三枚綴りのもの)〕の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の同六一年一一月二一日付領置てん末書

判示第一の一ないし三及び判示第三の一、二の各事実につき

一  第一回公判調書中の被告人野地忠の供述部分

一  西尾新介の検察官に対する供述調書

判示第一の一ないし三の各事実につき

一  被告会社木元不動産代表者佐久間博行の当公判廷における供述

一  被告人木元隆の検察官に対する昭和六二年九月二八日付、同月二九日付、同年一〇月二日付(二通)、同月三日付及び同月八日付(三通)各供述調書

一  被告人木元隆の収税官吏に対する同年二月二六日付及び同年三月七日付各質問てん末書

一  被告人木元隆作成の申述書(二通)

一  森太良〔同年九月二一日付、同月二七日付、同月二九日付、同年一〇月一日付(二通)及び同月二日付(二通)〕、野田圭三(同年九月一六日付)、泉谷吉成(三通)、高谷進三、鈴木孝〔同月二三日付及び同月二四日付(五七枚綴りのもの)〕、青山篤、原田より子、板橋義明、野村光子、木元敏江及び岩元憲雄(八五枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書

一  森太良の収税官吏に対する質問てん末書

一  石倉孝作成の申述書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  売上高調査書

2  売上原価調査書〔同年三月二四日付(記録第四六五号)〕

3  給料賞与調査書

4  福利厚生費調査書

5  旅費交通費調査書

6  接待交際費調査書

7  事務打合費調査書

8  雑費調査書(同年三月二四日付)

9  雑収入調査書

10  役員賞与の損金不算入額調査書

11  交際費の損金不算入額調査書

12  課税土地譲渡利益金額調査書〔同年三月二四日付(記録第四九四号)〕

一  検察事務官作成の捜査報告書三通〔同年一〇月八日付(損益計算書の勘定科目について)及び(課税土地譲渡利益金額について)と各題するもの並びに同年一二月一日付のもの(報告会社木元不動産の商業登記簿謄本添付のもの)〕

判示第一の一の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書(木元不動産株式会社昭和五八年九月期分)一袋(昭和六二年押第一四八一号の一)

判示第一の二、三の各事実につき

一  収税官吏作成の事業税認定損調査書

判示第一の二の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書(木元不動産株式会社昭和五九年九月期分)一袋(昭和六二年押第一四八一号の二)

判示第一の三の事実につき

一  収税官吏作成の有価証券売却益調査書

一  押収してある法人税確定申告書(木元不動産株式会社昭和六〇年九月期分)一袋(昭和六二年押第一四八一号の三)

判示第二の一、二の各事実につき

一  被告会社ベルウッド商会代表者花田昭七の当公判廷における供述

一  第一回公判調書中の被告会社ベルウッド商会代表者花田昭七の供述部分

一  被告人木元隆の検察官に対する昭和六二年一〇月一二日付供述調書

一  新井旭(二通)、森太良(同年一〇月三日付)及び岩元憲雄(一五枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  売上原価調査書〔同年三月二四日付(記録第四九五号)〕

2  役員報酬調査書

3  課税土地譲渡利益金額調査書〔同日付(記録第五二二号)〕

一  検察事務官作成の同年一二月一日付捜査報告書(株式会社ベルウッド商会の商業登記簿謄本添付のもの)

判示第二の一の事実につき

一  収税官吏作成の申告欠損金調査書

一  押収してある法人税確定申告書(株式会社ベルウッド商会昭和六〇年七月期分)一袋(昭和六二年押第一四八一号の四)

判示第二の二の事実につき

一  収税官吏作成の寄附金調査書

一  検察事務官作成の同年一〇月二四日付捜査報告書(「損益計算書の勘定科目について」と題するもの)

一  押収してある法人税確定申告書(株式会社ベルウッド商会昭和六一年七月期分)一袋(昭和六二年押第一四八一号の五)

判示第三の一、二の各事実につき

一  被告人山田義博の当公判廷における供述(第九回公判における供述については、被告人野地の関係では同公判調書中の被告人山田義博の供述部分)

一  第一回公判調書中の被告人山田義博の供述部分

一  被告人山田義博の検察官に対する昭和六二年一〇月一五日付、同月一六日付、同月一七日付、同月一八日付、同月一九日付、同月二〇日付、同月二一日付、同月二二日付及び同月二六日付(二通)各供述調書

一  被告人野地忠の検察官に対する同年一〇月一四日付、同月二〇日付、同月二二日付(二通)、同月二三日付、同月二七日付(二通)各供述調書

一  増田五郎、山口健策(同月二三日付)、野田圭三(同月二六日付)、越沼義秋(八通)、山田哲男(二通)山口誠(五通)、藤田和夫(一三通)、吉田毅一、大竹正樹(二通)、斎藤政、前田利幸(一〇通)、隈元敬一、井澤明(三通)、大野稔、荒木賢、高品一夫、土肥秀雄、上村武男の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の同年一月七日付領置てん末書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  利子収入調査書

2  収入金額調査書(二通)

3  必要経費調査書(二通)

4  不動産売却収入調査書

5  仕入調査書〔同年四月六日付(記録第三八一号)〕

一  検察事務官作成の次の標題の各捜査報告書

1  仲介手数料収入について

2  共同事業分配益について

3  雑収入について

4  租税公課について

5  交通費について

6  接待交際費について

7  賃借料について

8  保険料について

9  車両関係費について

10  減価償却費について

11  支払手数料について

12  支払利息について

13  雑所得の謝礼金収入について

判示第三の一の事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  租税公課調査書

2  損害保険料調査書

3  管理費調査書

4  借入金利子調査書

5  減価償却費調査書

6  住宅ローン保証料調査書

7  振込手数料調査書(二通)

8  雑費調査書(同年四月六日付)

9  貸付金利息調査書

10  給付補てん備金調査書

一  押収してある所得税確定申告書(昭和五九年分)一袋(昭和六二年押第一四八一号の六)

判示第三の二の事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  仕入調査書〔同年四月六日付(記録第三八〇号)〕

2  期末販売用資産棚卸高調査書

一  検察事務官作成の次の標題の各捜査報告書

1  水道光熱費について

2  通信費について

3  器具備品費について

4  管理費について

5  雑費について

一  押収してある所得税確定申告書(昭和六〇年分)一袋(昭和六二年押第一四八一号の七)

(法令の適用)

第一被告会社木元不動産及び同ベルウッド商会につき

一  罰条

被告会社木元不動産の判示第一の一ないし三及び被告会社ベルウッド商会の判示第二の一、二の各所為につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

二  併合罪の処理

それぞれ刑法四五条前段、四八条二項

第二被告人木元につき

一  罰条

判示第一の一ないし三、第二の一、二の各所為につき、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

いずれも所定刑中懲役刑選択

三  併合罪の処理

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の三の罪の刑に法定の加重)

第三被告人野地につき

一  罰条

判示第一の一ないし三の各所為につき、刑法六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項

判示第三の一、二の各所為につき、刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項

二  刑種の選択

いずれも所定刑中懲役刑選択

三  併合罪の処理

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の二の罪の刑に法定の加重)

第四被告人山田につき

一  罰条

判示第三の一、二の各所為につき、いずれも刑法六〇条、所得税法二三八条一、二項

二  刑種の選択

いずれも懲役刑と罰金刑とを併科

三  併合罪の処理

刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第三の二の罪の刑に法定の加重)、罰金刑につき同法四八条二項

(量刑の理由)

本件は、(1)被告会社木元不動産の代表取締役として同社の業務全般を統括していた被告人木元と不動産仲介等を目的とする株式会社忠峰商事の代表取締役である被告人野地が共謀し、被告人野地の発行にかかる架空領収証を利用して架空仲介手数料を計上するなどの方法で被告会社木元不動産の所得を秘匿したうえ、同社の三事業年度分の法人税合計二億八二九七万八六〇〇円をほ脱し(判示第一の一ないし三)、(2)被告会社ベルウッド商会の実質的経営者でもあり、その業務全般を統括していた被告人木元が、右同様野地の発行にかかる領収証を買入れて仲介手数料を架空計上するなどの方法で同社の所得を秘匿したうえ、同社の二事業年度分の法人税合計七一三四万五九〇〇円をほ脱し(判示第二の一、二)、(3)不動産売買及び仲介業を営む被告人山田と被告人野地が共謀し、前同様被告人野地が作成した領収証を用いて被告人山田が取引先から得た仲介手数料をあたかも忠峰商事等の収入であるかのごとく装って同被告人の所得から除外し、又、被告人山田の実父経営にかかる会社名義の不動産取引を仮装して同被告人の不動産売却収入を除外するなどの方法で所得を秘匿したうえ、同被告人の二年分の所得税合計五億三五三〇万七七〇〇円をほ脱した(判示第三の一、二)という事案である。

そのほ脱額はいずれも高額であり、被告人山田においては、ほ脱率も九一・八八パーセントと高率に及んでいること、被告人らは、それぞれ自らの思惑から本件犯行に至ったものであるが、その動機にはいずれも同情の余地がないこと、その犯行は、都心の土地取引に絡み、多額の利益をあげていた両被告会社及び被告人山田が各自の利益を隠匿するため、俗に「領収証屋」とか「B勘屋」などと呼ばれる被告人野地において額面金額の一割に相当する謝礼金を受け取って発行する架空領収証を利用した計画的で、巧妙かつ大胆なものであること、その他本件犯行の性質、社会的影響等を総合勘案すると、被告人らの犯情は極めて悪質であるといわなければならない。

そこで、被告人らの個別の犯情をみてみると、まず、被告人木元は、都心の地価高騰により活況を呈している不動産業界の景気も長続きしないであろうと考え、事業が好況なうちに脱税してでも被告会社木元不動産及び同ベルウッド商会においていわゆる裏金を貯え、両被告会社の経営基盤を安定させようとの意図のもとに本件各犯行に及んだもので、その動機は悪質というほかはなく、両被告会社のほ脱額が前記のとおり高額であること、被告人木元は、不動産ブローカーを通じて被告人野地を紹介されるや、同人がいわば職業的な領収証屋であることを十分承知しながら長期間にわたり同人と共同し、あるいは同人を利用して両被告会社の所得を秘匿していたものであり、その領収証の利用形態も、個々の取引について法的に認められている仲介手数料の範囲を配慮しつつ架空仲介手数料の額を決めたり、被告人野地経営にかかるランドフィールド株式会社の名義を借用して不動産売却主体を偽り、売上を除外してしまうなど巧妙かつ大胆であること、被告人木元は、両被告会社において社員を指揮・監督し、率先範を示すべき立場にありながら、右立場を利用して本件犯行を継続したことなどを併せ考えると、被告人木元及び両被告会社の刑責は非常に重いといわなければならない。

しかしながら、本件犯行は、対価を得て領収証を発行することを専門的に行う被告人野地の存在を無視して考えることはできないのであって、右野地の存在を知った被告人木元及び両被告会社にとっては、誘惑的な状況であったこと、秘匿した所得の大部分は両被告会社のために使用あるいは社内留保されており、被告人木元が個人的目的に使用した部分はそれほど多くはないこと、被告人木元は、本件発覚後、その犯行の重大性を認識し、両被告会社に関し、修正申告するとともに、その後になされた更正分を含め本税、附帯税及び地方税をすべて納付して反省の態度を示していること、被告会社木元不動産及び関連会社の経営体制の刷新と経理面の充実に努め、公認会計士による定期的監査も行うなど税務処理の適正化を計り、今後は正しく申告納税する旨誓っていること、被告人木元は、本件発覚後、被告会社木元不動産の代表取締役及び関連会社の役員をすべて辞任し、右各会社の取引先との間にできていた親睦団体から脱会し、特約店との関係を解消して謹慎生活を送っていること、本件が新聞紙上でも取り上げられるなど既に相当の社会的制裁を受けていること、贖罪の意図のもとに財団法人交通遺児育英会など五団体に合計三一三〇万円の寄付をしたこと、本件犯行により二か月余の間身柄を勾留されたこと、被告人木元の今日までの稼働状況、これまで傷害罪で罰金刑に処せられたほかには前科はないこと、その他被告人木元の経歴等、被告人木元及び両被告会社にとって有利な、又は、同情すべき事情が認められる。

次に、被告人野地についてみると、被告人野地は、自己の経営する忠峰商事の業績が不振であったことから、架空領収証の作成に対する報酬を目的として本件各犯行に及んだもので、動機において悪質であること、その犯行への加担の仕方・方法も相手会社らの所得秘匿行為が発覚するのを防止すべく、自己の発行する架空領収証の額面に見合う金額を仲介手数料収入の名目で税務申告するという巧妙かつ周到なものであり、しかも、被告人野地は、右のような方法で顧客の所得隠しに協力できることをいわば宣伝材料とする形で長期間、職業的・専門的な脱税請負人として行動していたもので、被告人野地の法無視の態度には著しいものがあること、本件架空領収証の作成に対する対価として被告人野地が取得した報酬は、被告会社木元不動産から七三〇〇万円余、被告人山田からは六一一二万円余と巨額に及んでいることなどを併せ考えると、被告人野地の刑責は非常に重いといわなければならない。

しかしながら、被告人野地の犯行は、両被告会社及び被告人山田のように所得秘匿を目的として長期にわたり架空領収証の入手を求める顧客の存在を前提として成立するとの一面のあることも否定できないところであり、かかる顧客側の姿勢にも問題があること、被告人野地は、捜査、公判段階を通じて本件各犯行を認め、反省の態度を示していること、本件が新聞紙上でも取り上げられる等既に相当の社会的制裁を受けていること、本件により二か月余の間身柄を勾留されたこと、これまで業務上過失傷害罪及び傷害罪により各一回罰金刑に処せられたほかに前科がないこと、その他被告人野地の性格、経歴、家庭の事情など被告人野地にとって有利な、又は、同情すべき事情が認められる。

次に、被告人山田についてみると、被告人山田は、将来の独立資金を蓄えるために本件犯行に及んだもので、かかる動機に酌むべきところはなく、又、前記のとおり、被告人山田のほ脱額は高額であり、ほ脱率も高率であること、秘匿所得の使途も、不動産、債券及び株式を購入したほか実名あるいは仮名で定期預金を設定して本件脱税による蓄財の目的を果たしていること、被告人山田は、被告会社木元不動産におけると同様、領収証屋である被告人野地を長期間利用していたばかりか、本件以前から実父経営にかかる会社名義の架空領収証等を用いて所得を秘匿していたことが窺われ、又、実父から被告人野地を紹介されるや、ためらうことなく同人を自己の所得隠しに利用し協力させていたもので、被告人山田には納税意欲が欠如していたというほかなく、かかる被告人山田の態度が領収証屋による架空領収証の発行を助長させる要因の一つとなっていることなどを考慮すると、被告人山田の刑責は極めて重いといわなければならない。

しかしながら、被告人山田は、本件が発覚するや、その犯行の重大任を悟り、その非を反省して税務当局及び捜査官に犯行を概ね自白し、再過なきを誓うとともに、本件の税務処理に関しては税務当局の指導に従い修正申告をなし、本税、附帯税、地方税を完納していること、本件後設立した会社において、新たに税理士を選任して適正な納税体制を整えるとともに、右税理士や被告人の父及び妻等が被告人山田を指導監督する旨誓っていること、本件が新聞紙上でも取り上げられるなど既に相当の社会的制裁を受けていること、本件犯行により、二か月の間身柄を勾留されたこと、これまで業務上過失傷害罪で罰金刑に処せられたほかに前科がないこと、その他被告人山田の年齢、経歴、家庭の事情など、被告人山田のために有利な、又は、同情すべき事情も認められる。

以上のような、被告人らにとって、それぞれ有利な、あるいは不利な諸事情を総合勘案すると、両被告会社に対しては主文掲記の各罰金刑を科すのが相当であり、被告人木元、同野地、同山田については、その各刑責の重大性にかんがみ、右各被告人のために酌むべき諸事情は、それぞれ刑期(被告人山田については刑期及び罰金額)の点で考慮するのが相当であると判断して、主文掲記の各刑を量定した次第である。

(求刑 被告会社木元不動産につき罰金八〇〇〇万円、同ベルウッド商会につき罰金二〇〇〇万円、被告人木元及び同野地につきいずれも懲役二年六月、被告人山田につき懲役三年及び罰金一億六〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲田輝明 裁判官 中野久利 裁判官 中村俊夫)

別紙一の(1)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙一の(2)

脱税額計算書

〈省略〉

別紙二の(1)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙二の(2)

脱税額計算書

〈省略〉

別紙三の(1)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙三の(2)

脱税額計算書

〈省略〉

別紙四の(1)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙四の(2)

脱税額計算書

〈省略〉

別紙五の(1)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙五の(2)

脱税額計算書

〈省略〉

別紙六の(1)

修正損益計算書 No.1

〈省略〉

修正損益計算書 No.2

〈省略〉

別紙六の(2)

脱税額計算書

〈省略〉

別紙七の(1)

修正損益計算書 No.1

〈省略〉

修正損益計算書 No.2

〈省略〉

別紙七の(2)

脱税額計算書

〈省略〉

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